2017年の3月、フィリピンのマニラに6日間行ってきました!
「world ship orchestra」というオーケストラのメンバーとして参加しました。
音楽というものが身近にない地域の小学校等へ行き、オーケストラで演奏します🎻
すごくいい響きかもしれないけれど、そこには受け止めがたい現実がたくさん存在していました。
私自身が、貧困という社会問題に目を向けた事がなく、スラム街を訪問した事含め、長くなりますがせっかくなので書き留めます。
首都マニラにある「トンド」へ
今回、主に私達が活動したのはフィリピンの首都マニラにある『トンド』という地域で、世界的にも貧困で有名な地域です。色んな国から流れてきたとされるゴミの最終処分場「スモーキーマウンテン(ゴミの山)」が存在します。
(↓とても空気が濁っているのがわかる写真ですね)
最初の本番はこのスモーキーマウンテン付近にある小学校での訪問演奏でした。
もちろん空気は綺麗ではないし暑いし、本当にここで?と思いましたが
行ってみると割としっかりした校舎の学校で、子供達は本当に明るいし、
演奏にも楽器にも興味津々で、すごい歓声と拍手の中、私自身も心から演奏を楽しみました。
ちなみに演奏する曲目は主に本格的なクラシックです。
私が行った時は
ビゼーのカルメン組曲や、サンサーンスの死の舞踏がメイン曲でした。
それ以外に映画音楽なども演奏します。
終演後は「セルフィー!」と、写真に写ろうとしたり、楽器を吹いてみたい!と周りにたくさん子どもが集まってきました。
先生達にもとても歓迎してもらい、お揃いのTシャツやサンドイッチを用意してくれたりと暖かいおもてなしもありました。
他にも二つの学校を訪問しました。どこも共通して子どもは明るいし先生は本当に歓迎してくれ、全ての本番が大盛り上がりでした。
曲中の歓声、手拍子など日本の演奏会では感じられない反応のダイレクトさが新鮮でした。ホームルーム見学や給食の振舞いなどもありました。
トンド チェンバー オーケストラとの活動
さて、このトンドには「少年少女弦楽団」のようなユースオケがあります。「トンド チェンバー オーケストラ(TCO)」という団体です。
過去には管楽器担当の子もいたそうですが、家庭の事情等でかなり規模縮小され、弦楽器のみで構成されているそうです。(全員で15名くらいだったかな‥‥。)
TCOのメンバーは意外としっかり弾ける子が多く、驚きました。与えられた環境の中でどれだけ楽器を愛して一生懸命練習してきたのかが感じられました。
チェロの女の子が持っていた練習曲集の中には「荒城の月」があり、イラストを書いて意味を伝えました笑)
そんな感じで学校訪問、TCOとの練習、また最終日に共演するマニラのプロオーケストラ、「マニラシンフォニーオーケストラ」とのリハなどをしながら日々を過ごしました。
東洋一のスラム街への訪問
4日目、TCOの一部の子達が住む、トンドの中でもさらに貧困地域で、
いわゆるスラム街である「ハッピーランド」を訪問しました。
(Happyではなくフィリピンの言葉で「Hapilan」(悪臭のするゴミ)からきた名前だそう)
「東洋一のスラム街」と言われています。
溢れるゴミで悪臭や空気の悪さ、足元の悪さは想像以上でした。今でも写真を見ただけでにおいの記憶が蘇ります。
家は一応建っているけれど、木などを集めた手作りの家で
川の上に建っているので、大雨が降ったらどうなるか一目瞭然です。
しかし、そんな環境の中でもそこに住む人たちの表情は笑顔が多く、私達の訪問を歓迎してくれました。
物乞いされるのかな…と思っていましたが、一切それもありませんでした。
洗濯をしたり、ニンニクの皮むきをしたり、よく分からない玩具で遊んだり、それぞれが一生懸命暮らしていました。
ここで一番衝撃を受けた話を。
この地域には「パグパグ」という食べ物があります。
どんな食べ物だと思いますか?
それはゴミの山から見つけた残飯を洗い、煮るなどして再調理した物で一般的な食べ物だそう。
もはや食べ物ではないですよね…。でも、ここの人達には、こうするしかないのだそうです。
こんな感じで、ほとんどの人が「その日暮らし」をしています。
今回の私達の活動のポイントはここにあります。なぜ、物資やお金ではなく「音楽」を提供したのか。
貧困問題は根深く一概には言えませんが、厳しい言い方をすると、
その日暮らしをしている大人達はその道を選んでいるとも言える、というお話を受けました。
今持っているものを何かに変えて商売にしようとか、そういう考えができればいいのですが
その日を生きることしかできないのです。
(教育を満足に受けられず、考える力が養われなかったのもあるかもしれませんが)
政府がなにか行動してくれるのを待っていてもダメです。
子供達に、“自分の生きる道”、つまり《ちゃんと食べていける力を持つきっかけ》を見つけてほしい。
という思いで私達は音楽を提供したのです。(私の解釈ですが)
上記にも述べましたが、マニラにはプロのオーケストラがあります。
今回、生演奏を初体験した子供達が「やってみたい!」と興味を持って音楽家を志してくれたら
それが食べていく道になるかもしれない。
また、指揮者体験コーナーで指揮をした子が指揮者になりたいという夢をもつきっかけにもなるかもしれない。
そういう子が増えて、TCOの活動が盛んになれば世間の「トンドに対するイメージ」も変わるのではないかな、とも思いました。(トンド出身と言うと、差別される事もあるそうです)
貧困は負のサイクルです。その日暮らしをする大人の元に育った子供は考える力もなく、そのような大人になります。
というお話も受けました。
それでは貧困は一生なくなりません。これを止められるかもしれないのが「音楽」なのです。
演奏会までワクワクしてくれて、当日音楽を楽しんでくれるのも充分嬉しいけど、音楽だけに限らず夢をもつきっかけを提供したかったのです。
トンド・チェンバーオーケストラとの本番
ハッピーランドを見学した日の夕方、すぐ近くにある建設中の教会でTCOとの合同演奏会でした。大変広い教会ですが、トンドの子どもや大人達で満席でした。
貧困を目の当たりにしたこと、一緒に練習してきたTCOメンバーの暮らしている環境を知ったこともあり、そのときの演奏はいつもと全然違っていたと思います。
教会でファランドールを演奏した時の自分の気持ちや、その時のオケの響きは一生忘れません。
ずっしりと心にくるものがありました。
TCOにとっても大人数のオケ経験はとても貴重だったと思います。どうかこの子達がずっとずっと楽器を続けていられますようにと願いながら、演奏を終えました。
マニラシンフォニーオケとの共演
最後の日はリサール公園という、とても大きい公園のステージで、マニラシンフォニーオケとそのジュニアオケとの本番。今日まで練習してきた全ての曲を演奏しました。
そこでも指揮者体験があって大盛り上がり!フィリピンは結構ガンガン前に出てきてくれるタイプの、元気な人が多いです(笑)
この日は私のフィリピンでの最後の演奏ということでフィリピンでの出会い、自分の音楽人生を振り返りながら演奏しました。
演奏者だけでなく現地のスタッフ、お客様とも一つになって完成した演奏会は忘れられないものとなりました。
すごく広い客席も満席。始まった頃にはまだ明るかったフィリピンの空も、演奏が終わる頃には高層ビルや高級ホテルのネオンが輝き、つい最近目の当たりにした貧困地域と同じ国にいるとは思えず、ここでもまた複雑な気持ちになりました。
演奏を終えて、写真をたくさん撮りました。
言葉はあまり通じないけれど、近くにいた人と喜び合って。もはや、音楽を共有した仲間として言葉は必要なかった気もします。
本当にあっという間の5日間でした。
さいごに。参加してよかったこと
今回参加して『特によかった事』は2つ。
1つは、音楽を通して貧困地域に触れられたことです。
スラム街、知ってはいたけれど
ただ知っているのと、実際に自分の目で見て体験するのは全然違いました。
正直、メディアなどを通してしか知らず、偏見を持っていたと思います。
(そういう人も多いのではないでしょうか)
けれど、実際に見て、想像していたのと現実は全然違うものでした。
不幸な顔をしている人はほとんど見ませんでした。
あの場所で、それぞれが一生懸命生きていました。
音楽をやってなかったら、私がそういう地域に足を踏み入れる機会は無かったと思います。
間違いなく、これからの自分が生きていく上で必要な経験となりました。
もう1つよかったのは、【音楽は国境を越える】ということを身をもって実感できたことです。
音楽があれば、見ず知らずの、喋ることすら出来ない相手であっても(言語の違いで)
一体になることもできるし
悲しみも喜びも共有することができます。
こんなにも心を通わせられるのは音楽以外にないと思います。
それを肌で感じることができたのは、大きな経験でした。
最後になりましたが
自分が何不自由なく生活している中、一方であのような生活をしている人がいることを忘れず、そしてフィリピンで出会った全ての人の幸せを願って日々を過ごしたいと思います。あの子達の未来に音楽がありますように。
素敵な写真の数々を撮影してくれたのはkoki tsumuraさん(twitter)
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